将棋ソフトの進歩と将棋界(5) [将棋]
正直なところ私は、仮に森内名人や羽生三冠が、三浦九段と同じ条件でGPS将棋と指して負けたとしてもそれほど驚くことはないだろう。もちろん勝てる可能性だって十分にあると思うが。
実際羽生さんが公式戦で三浦さんに負けたことだって何度かあるわけだ。だからコンピュータ側が最大限に実力を発揮できるような条件で戦えば、羽生三冠が負ける可能性は十分にあると思う。
少なくとも10年前までは最強のソフトといってもアマチュア四、五段レベルがいいところで、プロに平手で勝つにはまだまだ、みたいなのが将棋界の共通認識だった。
おそらくBonanza開発以降の急激な技術進歩の流れにプロ棋界自体がついていけないのだろうと思う。
もちろんコンピュータ将棋側にもまだまだ改善するべき課題が残されている。
例えば入玉模様の将棋になった時に、無意味に成り駒を作ったりするような傾向があったり、あるいは序盤に棋士なら当然第一感でわかるような一手を指さなかったりすることがある点だ。
ただこれらを指摘して「プロより強いだとか互角だとかとんでもないよ」という意見を、プロ棋士を応援する将棋ファンがいう分にはわかるのだが、プロ棋士自体が言ってしまっている場合があるのがどうも理解できない。
そういうことを言っているプロ棋士の方に言いたいのは「だったらあなたは、相手玉に詰みがあった場合は全て一瞬にして詰ますような技術があるのですか?」ということだ。要するにプロ棋士側にもコンピュータ側より劣っている部分はたくさんあるということだ。将棋ソフト開発者側がプロに相当近いところまで来ている、と言っているのはそういうところも全てひっくるめて総合的に見て、という話だ。ボンクラーズ開発者の伊藤英紀氏の「もう名人を超えていると思う」発言もそういう観点から来ているのだろう。
ただ、私が言いたいのは別にトッププロがコンピュータに負けたからとて、具体的になにかまずいことでもあるのだろうか、ということである。トッププロがコンピュータに負けたということは、それだけ将棋プログラミングの技術が進んだということ、そしてそれを利用可能にするだけハードウェアの性能が向上したということを意味するのである。そもそも機械と人間が全く同じやり方で将棋が指せるはずがない。何十万局の棋譜データをもとに、考えられうる局面をしらみつぶしに猛烈な速さで探索して次の一手を指させる等というのは、人間の脳では出来るはずもなく、完全に次元が違うものだ。そうしたことを考慮してもそれでもなお、プロ棋士の方が強いと思っていたこと自体が幻想だということなのだ。
棋士たちは普段公式戦を戦っているのだが、これは当然人間相手の戦いであって、女流棋士も奨励会員も人間との将棋に勝つために研究や実戦練習を行っているのである。そこに電王戦のような、次元の違う新たな戦いが組み込まれてきてしまったのは、正直なところプロ棋士の方にはちょっと同情したくなる気持ちがある。
だが一将棋ファンとしては、せっかく電王戦のようなイベントを行うのであるなら、コンピュータ側のPCに制限を設けるようなことはしないでほしいと思う。現時点では使用するハードにより高い棋力が出せるソフトがあることは事実なのだから、それを避けてしまうということ自体がコンピュータ将棋に対する偏見だと思うのだ。コンピュータ将棋は別にプロ棋士の存在を陵辱することが目的ではないのだ。純粋にどこまで将棋が強くなれるか・・・。それを棋士と開発者がお互いに目指して戦えば良いではないのだろうか。 そういう真摯に将棋に取り組む姿を大勢の将棋ファンに見せてもらいたいのである。
(終)
実際羽生さんが公式戦で三浦さんに負けたことだって何度かあるわけだ。だからコンピュータ側が最大限に実力を発揮できるような条件で戦えば、羽生三冠が負ける可能性は十分にあると思う。
少なくとも10年前までは最強のソフトといってもアマチュア四、五段レベルがいいところで、プロに平手で勝つにはまだまだ、みたいなのが将棋界の共通認識だった。
おそらくBonanza開発以降の急激な技術進歩の流れにプロ棋界自体がついていけないのだろうと思う。
もちろんコンピュータ将棋側にもまだまだ改善するべき課題が残されている。
例えば入玉模様の将棋になった時に、無意味に成り駒を作ったりするような傾向があったり、あるいは序盤に棋士なら当然第一感でわかるような一手を指さなかったりすることがある点だ。
ただこれらを指摘して「プロより強いだとか互角だとかとんでもないよ」という意見を、プロ棋士を応援する将棋ファンがいう分にはわかるのだが、プロ棋士自体が言ってしまっている場合があるのがどうも理解できない。
そういうことを言っているプロ棋士の方に言いたいのは「だったらあなたは、相手玉に詰みがあった場合は全て一瞬にして詰ますような技術があるのですか?」ということだ。要するにプロ棋士側にもコンピュータ側より劣っている部分はたくさんあるということだ。将棋ソフト開発者側がプロに相当近いところまで来ている、と言っているのはそういうところも全てひっくるめて総合的に見て、という話だ。ボンクラーズ開発者の伊藤英紀氏の「もう名人を超えていると思う」発言もそういう観点から来ているのだろう。
ただ、私が言いたいのは別にトッププロがコンピュータに負けたからとて、具体的になにかまずいことでもあるのだろうか、ということである。トッププロがコンピュータに負けたということは、それだけ将棋プログラミングの技術が進んだということ、そしてそれを利用可能にするだけハードウェアの性能が向上したということを意味するのである。そもそも機械と人間が全く同じやり方で将棋が指せるはずがない。何十万局の棋譜データをもとに、考えられうる局面をしらみつぶしに猛烈な速さで探索して次の一手を指させる等というのは、人間の脳では出来るはずもなく、完全に次元が違うものだ。そうしたことを考慮してもそれでもなお、プロ棋士の方が強いと思っていたこと自体が幻想だということなのだ。
棋士たちは普段公式戦を戦っているのだが、これは当然人間相手の戦いであって、女流棋士も奨励会員も人間との将棋に勝つために研究や実戦練習を行っているのである。そこに電王戦のような、次元の違う新たな戦いが組み込まれてきてしまったのは、正直なところプロ棋士の方にはちょっと同情したくなる気持ちがある。
だが一将棋ファンとしては、せっかく電王戦のようなイベントを行うのであるなら、コンピュータ側のPCに制限を設けるようなことはしないでほしいと思う。現時点では使用するハードにより高い棋力が出せるソフトがあることは事実なのだから、それを避けてしまうということ自体がコンピュータ将棋に対する偏見だと思うのだ。コンピュータ将棋は別にプロ棋士の存在を陵辱することが目的ではないのだ。純粋にどこまで将棋が強くなれるか・・・。それを棋士と開発者がお互いに目指して戦えば良いではないのだろうか。 そういう真摯に将棋に取り組む姿を大勢の将棋ファンに見せてもらいたいのである。
(終)
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