SSブログ

電王戦FINALの前に思う(3) [将棋]

 さて今回で5対5の団体戦として行われるのは最後であるということだが、第3回の電王戦の最終局のあとに行われた共同記者会見の場において、第4局の対局者であった森下卓九段が次のような発言をした。
「時間切迫や長時間の対局からくる疲労などによって、人間側はどうしてもミスをしやすい。勝負として負けるのはしょうがないとしても、その結果をもって将棋の技術そのものがすでに将棋ソフトのほうがプロ棋士よりも上である、と思われてしまうのは悔しい。人間側がヒューマンエラーをできるだけ少なくするようなルールで対局させてくれれば、まだまだプロ棋士も強いというところを証明することができるのではないか」
 そういって提案したルールが持ち時間が切れたら一手15分以内に指す、そして人間側は読みを確認しやすくするために対局室内に別な盤駒を用意して動かしていいというルールであった。

 まあこれを真剣勝負として見るかどうかは異論があると思う。よく詰将棋を解くときにプロがアマチュアにアドバイスするのが「問題を盤に並べるだけならいいですが、駒を動かしながら考えるのは待ったをしているのと同じですから読み切るまでは動かさないようにしましょう」ということだ。これは必至や次の一手問題にも言えることで、強くなるために御法度とされている行為をコンピュータに勝つためにプロが自らさせてくれ、といっているのだから相当な抵抗があるだろう。
 しかし人間同士の対局のルールをそのままコンピュータとの対局に持ち込むのはおかしいだろう、というのがいかにも理論派の森下九段らしい考え方である。厳密にいえばコンピュータでも指し手が幅広い局面では読み抜けをしていることがあるのだが、それでも人間が犯すミスの頻度に比べたらはるかに少ないのは事実だ。読みのスピードもコンピュータのほうが圧倒的に速い。
 そこまで言うなら実験的に本人にやってみてもらう価値はありそうだ、ということになって先日行われたのが大晦日の電王戦リベンジマッチであった。ただし秒読みに関しては一手につき双方10分というルールで行われた。
 これはある意味斬新的な企画であり、対局者の読みを継ぎ盤に再現するだけではなく、森下九段にマイクを付けて音声で視聴者に説明をしていた。人間同士の対局ならば相手に自分の読み筋を伝えてしまうことになるので絶対にありえないことを、コンピュータが相手であるという点を利用して実現させたのだから、イベントとしては面白いものだったと思う。
 対局の内容のほうも、コンピュータが得意とされている終盤において森下九段が放った勝負手に(実際はむしろツツカナの読みを上回った好手であった可能性もある)ツツカナがミスをして、森下九段がかなりの優勢になった。時間と心理的に余裕がある条件下ならば、人間が圧倒的に不利だと思われていた終盤でも逆転することができる、ということが証明されたという点では有意義であっただろう。
 ただ残念なことに土壇場に来て、ある程度予想されていた事態が起こったのである。・・・午前十時に開始された対局が持ち時間3時間を使い切ったら双方一手10分というルールのために、翌日の午前五時を過ぎても終わらないのである。
 局面自体は素人目でも後手の森下九段がかなりの優勢ではあるのだがツツカナ玉も簡単には寄らない状態だ。ソフトは基本的に自玉がはっきりと受けがないという状態になるまでは投了はしないものであるから日付が変わったことなどお構いなしに一手につき10分ぎりぎりまで考えてくる。一方の森下九段も優勢であるもののまだまだ油断はならぬと慎重に負けないようにと時間を使って指し続ける。特に午前3時を過ぎたあたりから森下九段のほうに寄せを読み切るという余裕がなくなってきてしまってより一層安全勝ちを目指す傾向が強くなってきたのである。前日の夕方まで解説していた佐藤康光九段が「いやーかなりじっくりとした将棋になってますから・・・明け方までに終わりますかね・・・」と心配していたのだが、それがまさに図星となってしまったのだ。

 結局5時20分ごろ後手の森下九段が△2三金と指した時点で立会人である片上六段が対局場に現れて森下九段と交渉をして時間の都合で指し掛けとして、日を改めて指し直しということになったようだ。森下九段としてはこのまま指し続けろと言われればぶっ倒れるまでやる、とは言っていたものの、実際そんなことになったらそれはそれで一大事である。そういう事態を回避した立会人の判断は間違ってはいない。ただ問題だったのはそのあとの片上六段の説明内容である。
 「まあ多少は長くなるだろうとは思っていたんですけれども、棋士をはじめとする運営スタッフがこういうことになるとは想定していなかったもので、このまま対局を続行するのはちょっと厳しいということになりまして、申し訳ないのですが指しかけということにさせていただきます」

 「想定してなかったって・・・おいおいそれはないだろうw」と突っ込みを入れたくなったのはおそらく私だけではないはずだ。今回の対局は途中に昼食休憩と夕食休憩があり、さらに三時間ごとに30分の休憩をとるルールとなっている。お互いに持ち時間3時間を使い切ったとして秒読みになるのは夜の7時ごろであるが、1手につき10分まで考えるとしたら一時間で最低6手しか進まないことになる。中終盤が60手続いたとすれば最悪10時間を費やすということになる。実際ツツカナも森下九段も秒読みになってから指した時間のほうがはるかに長かったのだ。コンピュータ側だけは一手一分以内に指すように設定するとかでもしない限り、森下九段が疲労困憊となってしまうことは予測可能なことだったのだ。だからこのルールでやる以上、たとえば24時までに終わらなかった場合は封じ手にして後日指しつぎにする、等の条件を最初から決めておけばよかっただけの話だ。
「先を読むことが商売のはずの棋士が、何みっともない醜態をさらしているのかね。片上君」
 あるいは天国で大山先生あたりが呆れ果てているかもしれない。
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:blog

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。