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棋士たちの敗北(1) [将棋]

 1月18日、日本将棋連盟会長である谷川浩司九段が辞任の意向を表明した。
 昨年10月以降続いた不正疑惑をめぐる騒動の責任を取る形での辞任となった。
 谷川九段の決断におおむね同意するが、しかし一方で、谷川九段が会長をやめたところで、およそ問題の解決や、多くの将棋ファンが抱いている不信感が解消されるわけではない、とも思われるのである。
 挑戦者であった三浦九段が突如、「出場停止処分」を受け、七番勝負開幕直前に挑戦者が変更されるという異例の事態となった第29期竜王戦。
 急遽挑戦者となった丸山九段は、対局には全力尽くすと決意を述べる一方で、三浦九段と挑戦者決定三番勝負を指した際には特に不審に思った点はなかったとしたうえで、「発端から経緯に至るまで(連盟の対応は)疑問だらけです」とコメントしたそうだが、今もまだ、いろいろと疑問が残ることが多く、正に今回の問題には、不可解な点が多い。
 一手でも早く相手玉を詰ませば勝ち、逆に自玉を詰まされたら負け、どっちも詰まなくなったら互いの駒の点数勝負。
 こういう実に明快な将棋の世界で、なぜこのような不透明で、何とももどかしい状況が起きてしまったのだろうか。
 
1月16日に将棋連盟HPに第三者調査委員会の調査報告書の要約版が開示された。そこには、今回の三浦九段の処分に至るまでの経緯(今まではマスコミの報道や各棋士及び将棋関係者等の発言、ツイッターやブログ等でのコメント等から、断片的にしかうかがい知ることが出来なかった事実)が時系列も含めて詳細に記されている。
 
 三浦棋士は、2016年7月26日、将棋会館で開催された第29期竜王戦決勝トーナ メントにおいて、久保棋士と対戦し、勝利した。この対局時、久保棋士は、三 浦棋士が、夕食休憩後という終盤において、しかも自分の手番で午後6時41分か ら7時12分までの31分間も継続して離席したほか、他にも離席が見られたこと などから強い不信感を抱いた。ただし、本件映像分析の結果では31分間にわたる 離席という事実は認められない。 久保棋士は、かかる誤った認識を元に、2016年7月29日に開催された関西月例 報告会において、対局中に電子機器を使う不正(いわゆるソフト指し)があり 得るからその規制をすべきという提言を行い、その中で、ある棋士が自分の手番時に約30分間も離席したことから、不審に思い、会館内を探したが見つからず、 対局後に検証したところ、当該離席後の指し手と将棋ソフトが示す指し手とが 一致したという事例を紹介した。久保棋士は、この報告会の場では、この事例が 三浦棋士との対局(久保戦)であると述べなかったものの、後日、東常務理事に、 三浦棋士との対局についての発言であったことを伝え、このことは谷川会長に も報告された。
((1)本件疑惑の発生経緯 より引用)

 三浦九段が疑われるきっかけとなったのがこの久保利明九段との対局であったことはすでに知られていた。しかし昨年の10月ごろの週刊文春等での記事によれば、この時点で久保九段はあくまで感覚的に「やられたな」と思っただけであり、そういう嫌な思いをお互いにしないように規則を強化してほしいとの提言をしたまでだ、とのことであったように思う。そして三浦九段の名前は出していない、ということであった。
 だが実際には、夕食休憩直後の31分の三浦九段の離席の際に、不審に思い将棋会館内を探したり、対局後に離席後の三浦九段の指し手をソフトで調べたりしていた、ということだったのだから、もうこの時点で久保九段は三浦九段のことをしっかりと疑っているのだ。しかも実際にはこの時の離席状況は、確かに次の一手を指すまでに合計3度の離席をしてはいるものの、離席の時間自体は6分、3分、5分の合計14分であったという。これは推測だが、三浦九段が席を立って一度は戻ってきたものの、次の手を指さずにまた席を立たれたのでなんとなくイラっと来たのではないだろうか。しかしタイトル戦で何度も場数を踏んでいる久保九段にしては、この時の心理状況はかなり短絡的なのではないだろうか。
 そして問題なのは、東常務理事(和雄八段)を通してこの報告が三浦九段を疑ったものであるということを知った谷川会長が、するべきことをしなかったことだ。
 すでに2015年の10月1日より、対局中の棋士が電子機器等を使用することは休憩時間を含めて禁じられている。もちろん将棋以外の目的で使ったとしても処分の対象になるのである。だから各棋士は自分の対局中は携帯電話やタブレットの電源は切っていなくてはならない。
 ・・・なぜ谷川会長はこの時点で、三浦九段に事情を説明した上で、久保九段との対局当日に三浦九段が所持していたスマートフォンやノートパソコン等を調査しようという発想にならなかったのだろうか。将棋ソフトが入っているとかいないにかかわらず、対局中に起動されていたかどうかが分かればいいのだから、事実の解明にはさほど時間はかからないであろう。
 確かにこういうことは面と向かっては言いづらいのはわかる。しかし、見方を変えればこういうときこそ組織の長としての真価が問われる、というものである。
 おそらくこういう行動に出られなかったのは、久保九段に対する気遣いもあったのではないか。三浦九段に協力を求めれば、当然久保九段が不審に思っていることを三浦九段に告げなくてはならない。そしてもし、三浦九段の不正行為がなかったとすれば、久保九段の面目は丸つぶれである。
・・・関西を代表する棋士の一人である久保九段を批判の矢面に立たせたくなかったという人情が働いたとしても不思議ではないだろう。
 
 だがこの時の谷川会長の行動の甘さが、結果として事態をより深刻化させたのは言うまでもない。
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