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棋士たちの敗北(4) [将棋]

 周知のとおり、昨年の(2016年)12月26日に第三者調査委員会により、三浦弘行九段が昨年7月から10月に行われた自身の対局中に将棋ソフトを用いた不正行為をしたのではないかという疑惑に関する調査の結果報告がなされ、疑惑について処分の根拠とされていた電子機器を使用した形跡はなく、またソフトとの一致率はその性質上根拠とはなり得ず、不正行為に及んでいた証拠はないと発表した。
 この報告に対して「調査開始の時点ですでに3か月以上経ってしまっている対局もあるので、必ずしも三浦九段が完全に潔白であるという証明にはならないのではないか」という受け取り方をする人々も、一部にいたようである。
 確かに三浦九段が疑われた対局において電子機器を使った形跡はないことはわかったが、では例えば最初の久保戦において、合計42回の離席をしていたことは事実なので、その間どこで何をしていたかがすべてわからなければ、シロだとは言えないだろう、という見方である。
 しかし、そもそも棋士は対局中において、不正行為や対局そのものを意図的に妨害するような行為さえしなければ、考慮中は自由に行動できる権利が認められている。現在では、対局が終了するまでは将棋会館の外に出てはいけないルールに変更されたが、その当時は対局中の外出も禁止されてはいなかったのである。
 いくら不正の疑惑があったからと言って、久保さんや渡辺さんとの対局中の三浦さんの行動の全容までを問いただすことはできない。仮にこれをするのであれば、三浦さんだけではなく、対戦相手の久保さんや渡辺さんについても、対局中の行動を調べ上げなければフェアではないだろうし、更に極端な話だが、ソフトが飛躍的に強くなったここ数年に行われたプロ棋戦のすべてが、グレーゾーンのもとに行われた対局である、ということにもなるのである。
 であるから、調査委員会としては告発者である渡辺明現棋王と最初に疑念を持った久保利明現王将らの主張する、三浦九段が不正をしたであろうと思われる根拠について、それらが不正の根拠たりうるのか?という視点から調査をしたということである。残念ながら当初から不正の現場を目撃したとの決定的な証拠はなく、調査委員会としても単なる憶測の領域の疑惑であったと結論を出さざるを得ない事柄であったと言えよう。

 さて、この一連の騒動についてはすでに今年(2017年)の5月24日に、日本将棋連盟と三浦九段の間で和解が成立している。和解までに時間がかかったのは、三浦九段に対する出場停止処分に対する双方の主張に食い違いがあったからだと思われる。連盟としては三浦九段が自ら休場を申し出たから急遽挑戦者の変更の手続きをしたが、三浦九段が休場届の提出を撤回したため処分を科した、ということだが、三浦九段としては常務会での査問の時に「このままだと竜王戦が行われなくなる」という主旨のことを理事から言われ、半ば出場辞退を強要された形であったという認識であった。この件に関しては調査委員会でも「その時の常務会理事や三浦九段の置かれた状況を鑑みると非常に難しい」として、出場辞退の強要の有無の明言を避けている。
 和解内容として「休場の強要はなかった(理事の発言を三浦九段の方で「竜王戦の辞退」を促す発言だと間違って解釈した)」となっており、三浦九段としては、当時の連盟会長や理事が責任を取る意味で辞任や解任が為されており、将棋連盟が新しい体制のもとに改めて「不正行為などなかった」という認識のもとに謝罪をして、竜王戦出場がかなわなかった分も含めた相応の慰謝料を払うという誠意を示したということに理解を示す形で妥協した結果となった。
 まあ三浦九段としてはとにかく新たな対局で結果を出す、ということに早く集中したかったのだろう。このころすでに藤井聡太四段の止まらない連勝で将棋界は空前の盛り上がりを始めていた時期だったので、「いま将棋界がいい意味で注目されているので水を差すようなことはしたくない」との実に前向きな会見であった。 

 しかし振り返ってみて、やはり気になるのは、この「将棋ソフト不正問題」が週刊誌によって最初に掲載された記事における渡辺竜王(当時)の発言だ。
「対局直後は三浦さんの研究にはまって負けたと思いました。でも前日検証していた棋士から指摘を受け、自宅でソフトを使って振り返ってみたら、明らかにおかしいんです。これは棋士にしかわからない感覚だと思います。感想戦で三浦さんが話した読み筋が、そのままソフトの読み筋だったことも分かりました。」
 「ソフトとの一致率が90%を超えていたらカンニングしているとか、そういうことではありません。僕や羽生さんの指し手が90%のこともありますから。一方で一致率が40%でも急所のところでカンニングすれば勝てる。一致率や離席のタイミングを見れば、プロなら(カンニングは)わかるんです。」(『週刊文春』2016年10月27日号(発売日10月20日)「将棋スマホ不正全真相」より)

 この記事が出された直後に「そのようなことは言っていない」と否定的な見解をした羽生三冠(現竜王)とは対照的に渡辺棋王は、軽率に取材に応じてしまったことに対しては謝罪したものの、この記事の内容自体は「おおむねその通りだと思います」とブログで表明している。のちに新聞などで渡辺さんが「疑わしい人物とは指せない」などとして竜王戦での対局拒否を匂わせる発言があったので連盟が三浦九段の休場の方向に動かざるを得なかった、との報道が島朗理事によってなされたが、こういう対局拒否のようなつもりで言った覚えはないとして、報道内容をところどころ訂正してはいるが、肝心の「ソフトで調べてみると明らかにおかしい」「棋士にしかわからない感覚」「プロならカンニングしたかわかる」という点は訂正していない。(将棋連盟と三浦九段の和解会見の直前に、渡辺さんから謝罪を受けたとの報告が三浦九段からあったが、何についての謝罪かは不明)
 このことから察するに、渡辺棋王はソフト不正に関する当時の自分の認識は間違いではない、との姿勢をまだ持ちつづけているようだ。
 しかしそれならばなぜ、調査委員会は何人もの棋士たちからヒアリング調査を行った結果として、不正はないという結論を出したのだろうか。
 三浦九段が出場停止にまで追い込まれたきっかけを作った一人は、こともあろうに竜王戦の挑戦を受ける立場にあった、当時の竜王本人なのである。これでは「三浦九段に予想以上の強さを見せつけられたので腹いせにソフト指しだと決めつけて不正者の汚名を着せた悪人」などと揶揄されても致し方あるまい。
 プロアマ問わず将棋ソフトを使って将棋を検討、研究している現在において、対局中にソフトを使って指した手かどうかがわかるかというのは、今後の不正対策において非常に大事な問題だと思うのだ。長時間の対局において離席の自由がいまだに認められている現状において、たまたま席を立って戻って指した手がソフトと一致したからと言っていちいち疑われたのでは、たまったものではない。
 今後の将棋界のためにも渡辺棋王や久保王将は、当時どのような考えのもとに、三浦九段を告発したのかを洗いざらい説明する必要があるのではないだろうか。
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