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将棋ソフトの進歩と将棋界(3) [将棋]

 なお今回の私の一連の文面のタイトルに「将棋ソフトの進歩」とつけてはいるが、当然のことながらアプリケーションソフトを作成する技術が進歩しただけで、プロ棋士に勝てるようなソフトが誕生してきたわけではない。ソフトのプログラムを処理するハードウェアの進歩も著しいからこそ、コンピュータ将棋のレベルも21世紀になって飛躍的に向上したのである。
 かってチェスの世界チャンピオンカスパロフがIBMの作成したコンピュータディープ・ブルーに負け越したのが1996年のことだった。このディープ・ブルーはチェスのチャンピオンに勝つことを目的に作られたスーパーコンピュータであり、その大掛かりさは三浦九段に勝ったGPS将棋によく似ていると思う。
 そしてそれから7年後の2003年には、やはりその時もまだ世界ランク一位だったカスパロフとチェスソフトが対戦したが、この時は既に汎用PC一台で対戦しており2度に渡る対戦はそれぞれ1勝1敗4分け、1勝1敗2分けと互角の勝負であった。この時点ではもう、わざわざディープブルーのようなチェス専用のマシンを用意しなくてもチェスのトッププレーヤーと互角に戦えるレベルに到達していたわけである。今からちょうど10年前のことである。

 将棋は理論上はチェスより複雑にできている。チェスの盤面状態が10の50乗なのに対して将棋は10の71乗と見積もられている。さらに考えられうる指し手の分岐はチェスが10の123乗なのに対し将棋は10の226乗であるとされている。これは将棋のほうが駒の種類が多い(チェスが6種類なのに対し将棋は8種類)、将棋は玉と金以外は敵陣に入ると成って動きが変わる(しかも必ず成るとは限らない)、それとなんといっても取った駒を使うことができるというルールによってもたらされている複雑性である。
 
 ただそうは言っても、だ。
 例えば地球上で一番大きく見える恒星は太陽であるが、実際太陽の半径は地球の110倍あるらしい。 地上から見る限りとてもそうは見えないがそれだけ地球と太陽の距離が離れているということに過ぎない。
 さらに銀河系レベルで言えば太陽よりも大きな恒星の集団が多数存在しているということだが、そんなことは我々の肉眼はおろか天体望遠鏡で見たとしても実感することはできそうもない。

 2005年に保木邦仁氏によって生み出された将棋ソフトボナンザは、考えられうるすべての局面を読む全幅探索の手法の方が結果的に効率が良いことを証明した。それ以降多くの将棋ソフトは皆この全幅探索で先読みを行っている。最新のボナンザはPC一台で一秒に最大1800万通りの局面を探索するそうだ。
 それだけの速度で読むことができる機械にとっては、もはや10の123乗も226乗も、それほど大差がないような気がしてならないのだ。いわば「五十歩百歩」ということになってしまいそうである。
 天体間の距離を光年という単位で表すけれども、読みのスピードだけに限定すれば、プロ棋士の頭脳をもってしても今のソフトに比べれば、自転車の速度と光の速度ぐらいの差がありそうな気がするのだ。
(続きはまた次回に)
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将棋ソフトの進歩と将棋界(2) [将棋]

 さてこの第2回電王戦の五番勝負が行われているさなか、第71期将棋名人戦七番勝負がスタートした。
森内名人対羽生三冠の、もはや宿命の対決といってもいいぐらいの注目カードである。
 結果は森内名人が4勝1敗で防衛した。この時点で通算タイトル保持83期をほこる最強棋士の前にまたもや名人戦という大舞台で同い年のライバルは立ちはだかったのであった。決して羽生の棋力が衰えたというわけではなく、名人戦後立て続けに行われた棋聖戦、王位戦、王座戦で羽生はタイトルの防衛に成功し、通算タイトルを86期にまで伸ばし、三冠を維持した。やはり森内の名人戦にかける意気込みが凄いとしか言いようがない。

 さて森内名人が防衛を決めた第5局。相矢倉戦で後手の森内が指した62手目の3七銀が話題となった。
 この手はプロの公式戦では前例がなく、指された時点で控え室等で検討していた棋士たちは名人が用意した新手だと思っていたことだろう。ところがこの手は既に大勢の人たちが見ていた場において指されていた手であった。
 指したのは第2回電王戦に出場して佐藤慎一四段に勝った将棋ソフトponanzaである。
 ponanzaは電王戦が終わった直後の今年の5月に二週間ほど将棋倶楽部24のレーティング戦を指していた。たぶん開発の参考にするためだろう。そしてこの時期に指された将棋の中でponanzaは前例のなかった3七銀を指したということだ。(ちなみにponanzaはこの時期に24のレーティング記録を3453まで更新した)
 森内名人はこの手がこの局面において有力な一手だと判断し、自分なりにその後の展開を考えた上で、公式戦では前例のなかった一手を羽生挑戦者相手に指したのである。
 
 このことから見てもわかるように最新のレベルに達した将棋ソフトは、単に終盤で詰みがあるかないかの判断のみならず、中盤においてもトッププロが参考にできるような、前例のない好手を指せるレベルになっているということなのだ。
(続きはまた次回に)
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将棋ソフトの進歩と将棋界 [将棋]

 今年の3月から4月にかけてニコニコ生放送にて中継された第二回電王戦。
 結果は周知の事実のとおり、ソフト側の三勝一敗一分けであった。
 まあ、私も正直ソフトの強さは24の早指し将棋で嫌というほど見せつけられていたので、プロが勝ち越すのはプロ側のメンバー的に見て少々厳しいのではないかな、と思っていた。

 特に私の予想というかプロ側(というよりも人間側)が負ける不安要素が的中してしまったのが第3局の展開であった。
 将棋ソフトツツカナの攻めをしのいで優勢な局面を築き上げた船江五段。途中ツツカナの妙手によってさが縮まったがそのあとまた形勢に差がつき、はっきりと船江五段の方が優勢な状態になったのである。
 そこから船江五段は残り時間を使ってしまうのを気にしたせいもあるのか、無理に勝ちを急ごうとせず、安全勝ちを目指しに行った。いわゆる勝負に辛い手を指し続けたのであるが、結果的にこれが裏目に出てしまったようだ。人間相手ならばこれで諦めて淡白に指してくれるのだがコンピュータ相手だとそうはいかない。
 例えば70-30で相手に負けている局面で一生懸命考えて69-31に差を縮める(これでも数値的には前の局面よりはいい)ような手を延々と指し続けられるのがコンピュータ側の強みなのである。諦めてくれない相手に船江五段の方が熱くなってしまって緩手を指してしまい、最終的には時間にも追われて逆転負けを喫する結果となった。

 そして最終戦の三浦九段とGPS将棋の対戦は将棋ファンにとっても衝撃的な内容だったと思う。
 GPS将棋側は東京大学に設置されたコンピュータ670台を起動させて局面探索を行い次の一手を決めさせるという大掛かりなものであった。とはいえ、結果的に持ち時間が4時間の対局で現役A級棋士がいいところなく攻め潰されてしまったのだから。
 少なくとも将棋ソフトのレベルは、まだ弱点はあるものの総合的に見ると、もうプロのトップレベルに近いところにまで来ているのだ、ということをプロ側は認めざるを得なくなってしまったようだ。
 
 そんなわけで第二回電王戦以降、今年の将棋界は将棋ソフトをめぐる、今までにない出来事が起こった年であったようだ。
(続きは次回に)
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ボンクラーズに勝つには…(後編) [将棋]

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 図では先手が7筋に攻めを集中させようとしている。ここで仮に5三金が5二にいるのなら後手は3一角として7五の地点を受けることができたので、先手が▲7六歩と合わせてきても数が足りているので大丈夫であったのだ。しかし5三金と上がってしまったのでこの受けができない。さかのぼると70手目の△4二金では先に3一角から5三角と角を転換させておいた方がいい形を維持しながら7五の地点に角をきかせることもできたので先手も攻めるのは難しかったようである。(この順は対局当日の大盤解説をしていた渡辺明竜王が指摘していた)

 △3四歩▲6六歩△同歩▲同角△4四歩▲7六歩△同歩▲同銀
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 先手の角筋がそれたので後手は3四歩とついに角道を開けるが▲6六歩と合わせられて角交換を挑まれる。角交換するのは全体の陣形の差が響くので△4四歩はやむを得ないが、すかさず▲7六歩と合わせられて以下△同歩▲同銀となり、先手の攻めがつながる形となってしまった。図で△7五歩とするのは強く▲同銀とされ△同銀▲同飛△同金▲同角となり最後の7五角が5三の金取りになっているのが痛く後手がつぶれてしまう。

 △6五歩▲4八角△4五歩▲7五歩△8四金▲7七桂△6六歩▲5七金△5五歩▲6五歩△5六歩▲6四歩△5七歩成▲6三歩成△4八と▲5三と
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 後手は6五歩から先手の角を追い△4五歩と再び角筋を通すがいったん▲7五歩が入るのが大きい。△8四金と逃げる一手だが、そこで7七桂と跳ねて香取りを受けながら桂を活用できるのが味が良い。△6六歩と先手の角道を止めるが5七金と更に攻めに厚みを加える。
 ここで△7五銀と位を取り返そうとするのは▲6五桂という切り返しにあう。(この時に5三の金が浮き駒になっているのが痛すぎるのである)そうかといって放置すれば▲6六金と取られてしまう。どうやらこの時点で米長永世棋聖は自分の負けを悟ったようであった。△5五歩に対して先手は▲6五歩以下一直線の攻め合いに出た。ここはもっと穏やかに指す手もあっただろうが、一気に決めに出てくるところはいかにもコンピュータらしい。

 △4九と▲同銀△6七歩成▲7四金△同金▲同歩△7八と▲7三歩成△同玉▲6五桂△6四玉▲7五銀打

 までボンクラーズの勝ち
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 △49とでいったん先手玉に詰めろがかかるが▲同銀と取られて後手は継続がない。7四の地点を受けても7一銀などの寄せもあるので△6七歩成と形作りに出るのも致し方ないだろう。先手は7四金以下、後手玉をきれいに寄せてしまった。 

 今回の米長永世棋聖の厚みをとる指し方はなるべく直線的な戦いを避け、玉頭に手厚く位を張ってボンクラーズの無理攻めを誘うような作戦であった。
 だがボンクラーズは有効な攻めがないと判断するやひたすら手待ちを続けたのである。5三金と上がる手が形が悪かったようでこれが最後まで響いたが、だが渡辺竜王の言うように3一角から5三角としたとして、確かにこれなら本譜のように攻めつぶされることはないとしても、先手から攻めてきてくれない限り後手としても下手には動けない。となるといずれは千日手である。米長永世棋聖は仮にご自身が先手番になったとしてもやはりこの右玉作戦で指すつもりで事前練習をしていたそうだ。
 たしかに6二玉と指した手に対して四間飛車にして、後手に6筋7筋の位を取らせてもいいと判断している点はボンクラーズの欠点ではある。だが6筋と7筋の位を取ったとしても、それ以外に後手が払う代償が大きいのもまた事実だ。角の働きが悪く、玉の硬さも先手玉より劣っている。全体的なバランスで考えると後手が有利と言える状態にはなっていない。ただボンクラーズの強い攻めを封じたというだけで、自分から攻めていくことはできないのである。

 正直に言うと、練りに練った作戦で打って出て、相手が攻めてきてくれなければ永遠に引き分けになってしまう、というのは、プロ棋士の技術として見た場合、ちょっといかがなものだったのか、という気がするのである。
 前にも書いたとおり、米長永世棋聖は相手がコンピュータである、ということをちょっと意識し過ぎであるように思う。もっと純粋に、棋理にかなった戦略を考えるタイプの棋士との対戦を次回は見てみたいものだ。
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ボンクラーズに勝つには…(前編) [将棋]

 1月14日に行われた、コンピュータ将棋のチャンピオンソフトボンクラーズと米長邦雄永世棋聖との対局は新聞やテレビでも報道されたように、113手まででボンクラーズの勝利となった。
 後手番の米長永世棋聖の初手は、前回の対戦と同じく6二玉。
 この手についてはいわゆる定跡にはない手なので、奇策だとか言われていて、米長氏としては奇策とか書かれるのは心外であるらしい。ボンクラーズと対戦するにあたって、米長氏は前もっていろいろと対策を練り、考えに考え抜いた結果やはり6二玉がボンクラーズと勝負するには最善であろうという結論を出したようだ。
 現に前回のボンクラーズ戦における敗戦の時に米長氏は
「6二玉自体は立派な指し手であるが、そのあとの私の指し方がまずかった。6二玉という指し手に大変申し訳ないことをしてしまった。」
 という弁を述べており、その言葉通り今回の対局では序盤の手順に工夫を加えていた。後手は6筋7筋に位を取ることに成功し、おそらく序盤から中盤の入口までは米長氏の構想通りに進んでいたと思われる。
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 44手目△8五歩までの局面。6筋7筋の位が手厚い。先手としても玉の硬さは万全なので何とかして攻めたいのだが、今すぐ有効な攻めはない。ボンクラーズの指し手が見ものであったのだが・・・。

 ▲7六歩△同歩▲同飛△7五歩▲3六飛△8二飛▲6六歩△同歩▲同飛△6五歩▲9六飛△7三桂▲1五歩△7二玉
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 図でボンクラーズが出した結論は・・・指されてみれば実に単純だった。有効な攻め筋がないから手待ちをして相手の出方を待とうということである。▲4六歩から高美濃に組み替える手順も考えられるがこの局面の場合は飛車が横に行く余地がなくなってしまうのでこのまま平美濃で手待ちをした方がよいと考えたのだろう。
 有効な指し手がないからと言ってこのように飛車が行ったり来たりを繰り返すのは、人間から見たらばかばかしいようにも思える。だがしかし、どんな局面でもお互いに一手ずつ必ず指さねばならないという制約があるゲームにおいては、こういう一見バカげた行為を何のためらいもなくできるということが、逆に強みになってしまうことがあるから将棋は面白いのだろう。

 ▲7六歩△同歩▲同飛△7五歩▲4六飛△8三玉▲7六歩△同歩▲同飛△7五歩▲7八飛△4二金▲5六歩△5三金▲6六歩△同歩▲同角△6五歩▲5七角
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 先手は似たような手順で飛車を動かす。これに対して後手は8三玉とやはり入玉含みの指し方だ。かって升田幸三実力制4代名人がアマ強豪として有名だった小池重明氏との角落ち戦でこういう指し方で快勝した将棋がある。この8三玉を見てボンクラーズはまた7六歩の合わせから飛車を7筋に戻した。
 思うにここで後手は千日手になるのを承知でもう一度7二玉と指すべきだったようだ。先手は8筋を受けるのならば7七角と上がるのが自然だが以下△8三玉▲8八角△7二玉▲7七角と繰り返せば千日手になる。
 しかし米長永世棋聖としては当初の構想通りに進んでいるから千日手にしようなどという発想は浮かぶはずもなかっただろう。後手なら千日手狙いで行く作戦も現在の将棋界では珍しくはないのだが、米長氏としてはあくまで勝つことを前提として用意した作戦であるから、もっと優勢にしようと遊び金を活用して金銀の連携をよくしたのだ。
 だがよくよく考えてみると、先手は8三玉を見て7八飛と飛車を7筋に戻したのである。似たような手順が繰り返されているようなので気づきにくいのだが、これまでの手待ちの意味の飛車の移動とは明らかに違い、8三玉を攻撃の標的にするべく飛車を7筋にすえたのだ。そのことは5六歩から6六歩同歩同角とした手順に表れている。ボンクラーズは8三玉を見て7五の地点に攻めを集中させようとしているのだ。8三玉がボンクラーズの攻めを誘発させてしまった、ということになる。
 そしてさらに言えば、何気なく上がった後手の5三金。
 これが実はものすごく罪の重い一手になってしまうことを、果たして米長永世棋聖は指した時に想像していただろうか。

(つづく)

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里見さん奨励会初段に^^ [将棋]



 昨年5月に1級で入会した里見香奈女流三冠。
 
 入会前の評判からすると、やや足踏みした感じもしますが、やはり奨励会はそれほど甘くはないということでしょうね。

 とりあえずおめでとうございます。

これから更に道は険しくなりますが、四段を目指して頑張ってほしいですね^^
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恐るべしボンクラーズ(4) [将棋]

△6五同桂▲同桂△同歩▲同飛△8四歩
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 「△8四歩が敗着ですね。これ以降はもう駄目でしょう」

 米長永世棋聖は局後の感想ではっきりとした口調でこう述べていた。
 6筋でごくふつうに桂馬と歩を交換した局面で後手は8四歩とついたのだが、改めてこの手を見るとちょっと危機感が足りなかったのかなと思う。
 後手玉と銀に先手の飛車が直射していて怖いのだが、しかし7八の銀も8八角もまだ攻めには参加してないので、ぱっと見、そんな厳しい攻めはなさそうに見えるのだが…

 ▲7五歩△8三金▲7四歩△同金▲2五飛△3二金▲7五歩
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 7五歩が指されてみればなるほどという厳しい手だ。後手は7五同歩とは取れない(7四桂と打たれるから)。▲2五飛△3二金に再度の▲7五歩。金をどこに逃げても7四桂馬が受からない。
 ここはボンクラーズが一本取った形だ。

 △6四金▲7四桂△同銀▲同歩△同金▲6七銀
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 銀桂交換の駒得に成功してからじっと▲6七銀。羽生二冠がこんな手をタイトル戦で指したら「さすが!」と称賛の声が聞こえてきそうな渋い一手だ。ここまで進んでみると先手は飛車が縦横によく効いており角も銀も使える。玉の硬さも明らかに先手が堅陣。もう相当に先手有利に形勢が傾いたようである。以下もボンクラーズは一分将棋の中、ミスすることなく確実に攻める。

 △6四歩▲7六銀△7三金▲6五歩△7四歩▲6四歩△同銀▲6五歩△5三銀▲6四銀△同銀▲同歩
 △同金 ▲9七角△6三歩▲6五銀△7三銀▲4一銀
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 米長永世棋聖も劣勢の中なんとか耐えて攻めが途切れるのを待つのだが、まったくその兆しがない。振り飛車側は悠々と左銀を五段目まで持っていく。そしていいタイミングで放たれた4一銀。金を逃げるよりないが 2三に飛車をなられては大勢は決した。
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 後日米長永世棋聖はご自身のブログにて「こっぴどく負かされた。悪夢だ。責任をとって引退しようと思ったが、すでに引退していたんだな(笑)」みたいなことを書いていたが、そういう自嘲を言いたくなってもしょうがないぐらいの悪い内容であったと思う。麻雀だったら「接待でしょう?これで気をよくさせておいて後で勝つつもりだろう」みたいに思われても仕方がないところである。

 思うにコンピュータ将棋は一部人間にはない欠陥はあるにせよ、総合的にみればプロレベルの実力があるとみていいだろう。だからと言ってプロ棋士の存在意義がどうのという心配をすることもないだろう。
 米長氏は10月にボンクラーズとの対戦が決まったのち、この対戦に備えて会長職務の合間を縫っていろいろと研究をしてきたご様子だったが、コンピュータとの対戦をしてコンピュータに勝てるような対策に明け暮れていたように思う。
 確かにコンピュータの欠陥を突くのも大事だとは思うが、それを差し引いてもいまのコンピュータ将棋のレベルは高いのだ。そういうことにとらわれずに、かっての米長氏のように若手のプロとたくさん将棋を指して往年の強さを取り戻してほしいものだと思う。(まあ時間に限りがあるのでそこまでしている暇はないのかもしれないが。)

 コンピュータ界の進歩は他の世界に比べると10倍のスピードだと言われる。では将棋界はそれに見合うだけの進歩をしてきたのだろうか。
 将棋がなるべく強くなりたいという人は世の中に大勢いる。ネット対局が当たり前になった今では、将棋ファンは世界各国にいるのである。その割に将棋の上達法を科学的、体系的に表そうという試みが明確になされてきたとはまだまだ言えない状態である。初心者から初級クラスにまではうまく導けるものの、そこから中級より上への上達の道はどちらかと言えば「習うより慣れろ」「わかるやつにはわかるからそれでいい」みたいな時代遅れな考えに支配されているのではないだろうか。
 将棋界の進歩自体が遅ければいつかはコンピュータソフトに抜かされてしまうかもしれない。ただそれだけのことである。ある意味「プロ棋士が絶対的に強いんだ」と神格化されているよりは、将棋界そのものの進歩と向上と言う面においていい刺激になるのではないだろうか。
(終わり)
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恐るべしボンクラーズ(3) [将棋]

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 米長永世棋聖が初手に指した△6二玉。これには二つの狙いがあると思う。
 一つは定跡化された展開を避け、最初から力戦形にすること。米長氏も局後に述べていたが、定跡通りの展開にするのは、整備された高速道路を競走するようなものだから直線的な読み合いになるのでコンピュータに分がある戦いになる。だから最初から未知の局面に持ち込もうというのだ。定跡手順だとボンクラーズはノータイムで指してくるが、このような将棋だと最初から一手一手慎重に指してくる。実際、この対局はボンクラーズのほうが先に15分の持ち時間を使い切り一分将棋になり、その時点で米長氏の持ち時間はまだ10分は残っていたようだ。
 もう一つは、ボンクラーズがこの6二玉に対して振り飛車で来ることを想定して、入玉を目指す戦いをしようというのだ。ボンクラーズは相手の玉が入玉をする展開になると、形勢判断がうまくいかないのか、自滅するような手を指すことが多い。先に入玉された時点ではまだボンクラーズのほうが駒得で有利な展開でも、自玉が囲いの中に入っていると、そのまま無意味に敵陣に成駒を作り続けてしまうことがあるのだ。相手が攻めてきてくれれば、その反動で上部に逃げ出すのだが、攻めてこないと自分から玉を囲いから脱出するという発想が出てこないようなのだ。これは終盤戦においては大きな欠陥である。米長氏はそこに狙いをつけたのだ。(もっとも24での対局でこの欠陥は何度も露見されているので、開発者の方も入玉対策ができるように多少の修正を加えてあるということだった。)
 
 ただ、問題なのは、この戦い方だと、先手玉は振り飛車から美濃囲いにすれば、当分は後手玉を攻めることだけに専念できる「玉なし将棋」の展開になる・・・。R3300の相手の攻めを米長氏はうまくかわせるだろうか。下手すると一方的に攻められて終わってしまうことになりかねない。とにかくボンクラーズは攻める目標を見失うまではとてつもなく強いのである。
 
 案の定、私の嫌な予感は的中してしまった。
 
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 端歩をひとつ突いておいてからの▲7七桂。これが一見筋悪のようでいてなかなかの手であった。.攻めの態勢を素早く作り、角は9七角とのぞいて使おうという意図であろう。
 ここから△7四歩▲7八銀△7三桂▲5八金左△7二金▲4六歩△9四歩▲6五歩と進む。

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 局後の感想で米長氏は7四歩から7三桂と指すべきではなかったと言っていた。しかし6二玉から右玉で行くのであればこう指すのは自然な手である気もする。7四歩ー7三桂がだめだというなら、そもそも初手からの数手の構想に問題があったと考えられる。逆に言うと先手の早い7七桂が機敏な一手だったということである。
 そして後手の9四歩を米長氏は「これは緩手だった」とはっきりと反省されていた。ボンクラーズは少考して▲6五歩。美濃囲いの堅陣から相手玉をにらんでの攻め。まさに理想形である。
 ただし引退してしばらくたっているとはいえ、相手は米長永世棋聖である。並みのアマチュアなら指導対局でここまで組ませてもらっても、ここから本気を出されて逆転、という光景は別に珍しくないものである。
 ここからボンクラーズの真価が問われるということになるのだが・・・
(つづく)

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恐るべしボンクラーズ(2) [将棋]

 具体的にボンクラーズがどういう将棋を指すのか、は今将棋倶楽部24のトップページに、この2カ月余りの間のボンクラーズ(24ID:bonkras)の棋譜がすべて見られるようになっているので、そこを見てください。
 (何でも28日の午後から開発者さんの都合でちょっと対局を中断しているようで、現在はボンクラーズは24では指していません。しばらくしたら再開するようです)
 
 私も11月の半ばあたり(ちょうど順位戦の羽生ー佐藤戦のネット中継を見ている間に東京道場を覗いたのだった)からおよそ100局は観戦していると思う。でおおまかな感想を。

 まず序盤は相矢倉とか角換わり腰掛け銀先後同型とか、最近はやりのゴキゲン中飛車などのほぼ定跡化された手順だとまず間違えることはない。ただ、詳細に定跡化されてなくても、序盤の常識的な手段だとされているようなことを、時々しないことがある。例えば相居飛車の将棋で6八銀7八金8八角などと並んでいるようなときに、後手から△8五歩と飛車先をのばされても飛車先を受けるために7七銀と上がったりはしないことがあるのだ。もちろん相居飛車の将棋は必ずしも飛車先の歩交換を受けるとは限らないので、大した損ではないと思うのだが、ボンクラーズ側が四間飛車ですでに7八銀と上がっている状態の時、居飛車側がちょっと早めに8五歩とついて来ても秒読みで26秒まで考えて、結局7七角とは上がらないことがあるのはかなり驚いた。これは明らかに損だ。おそらく飛車先の歩に関しては「交換されても成り込まれなければOK」みたいな評価基準になっているのではないだろうか。(ただ、いつも受けないわけではない。普通に「7七角」と受けることもある)
 こうした人間から見れば初歩的なミスをしてしまうことがあるにも関わらず、なぜR3300と言う驚異的な数字を出せるのかと言えば、やはり戦いが起こってからの強さが半端ないのである。単に猛烈な攻め合いが好きなのかと思えばそうではなく、相手の無理攻めを切らせて勝ってみたり、細かい攻めをうまくつないでみたり、居飛車穴熊相手にじっくりと銀冠にくんで、かっての大山十五世名人を思わせるような受けつぶしをすることもある。(しかもR2900とか3000の人を相手にこの指し回しをするのだから恐れ入る)
 おそらく、戦いが起こってからの中終盤の読みが相当幅広く、かつ大局観が以前のソフトにもましてよくなってきているように思う。大局観にかなり優れているコンピュータがものすごいスピードで読んでいるのだから、プロが簡単には勝てなくなったとしてもなんら不思議はない。

 技術的な面はすでにプロレベルのコンピュータに何とかして勝たねばならないとしたら、後は戦略的な部分で勝つしかない。幸いコンピュータは意図的に相手によって戦法を使い分けたり、終盤に時間を残しておくために序盤を早指しで飛ばしたり、などということはしない(できない)ので、差をつけるとしたらそこの部分である。
 かって泥沼流と言われた勝負師米長永世棋聖は、その点に目をつけたのであろうか。本番前に将棋倶楽部24で行われることになったボンクラーズとのプレマッチでかねてより用意していたという秘策を出した。
 先手bonkras▲7六歩に対して後手米長邦雄永世棋聖は △6二玉!と指したのである。
 この手の意図は何であろう。
 (つづく)


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恐るべしボンクラーズ [将棋]

 将棋ファンにはすっかりおなじみな、インターネット将棋道場「将棋倶楽部24」。
 ここには初心者(と言っても24自体がレベルが高いので、駒の動かし方を覚えた程度の人はまず来ていないと思われる)からほとんどプロ並の強さを持つユーザーが集まり、毎日2000人から3000人ぐらいの方が将棋を楽しんでいる。
 この「24」で11月上旬あたりから将棋ソフト「ボンクラーズ」がレーティング対局を始めた。
 ボンクラーズは今年のコンピュータ将棋選手権で見事優勝した将棋ソフトであり、来年1月14日には米長邦雄永世棋聖と対戦することが決まっている。

 7年前、米長永世棋聖がNHK教育テレビの人間講座の講師を担当していたが、その際コンピュータ将棋についても語っている。その時の米長さんの見解としてはおおよそ
 「部分的にはソフトに絶対に勝てないところもあるが、総合的にみるとまだまだプロ棋士のほうが強い。」
であったと思う。序盤である程度定跡化されている部分の手順の再現(記憶力)や、終盤の詰みを発見する能力などはプロもかなわないが、実際に勝負するとなると未知の局面でどう指すべきかを判断する大局観が物を言うのでそう簡単にプロ棋士に追いつけるものではない、ということだった。
 
 しかしそれから1年後(2005年)、ボナンザというソフトが開発されると、プロ棋士たちの見解もだいぶ変わってきた。
 「アマチュアのトップクラスや奨励会の有段者がころころ負かされる。」
 「30秒将棋なら.並みのプロだとやられてしまうのではないか。とにかく強い」
 渡辺明竜王もブログでこんな意見を述べており、その竜王とボナンザが公開対局を行ったのは2007年。
 この時は渡辺竜王の終盤の強さが発揮されて、見事勝利を収めた。
  
 今現在、渡辺竜王が勝ちを収めてから4年の月日が経過している。
 去年の10月に清水市代女流王将(当時)がコンピュータ「あから」と対局した。このコンピュータは4つの将棋ソフトがそれぞれ次の手を読み、合議制で指し手を決めるという方式が取られていた。清水さんはこの対局に備えて相当な事前研究をしていたともあってか、持ち時間3時間の対局なら清水さんに分があるようなことも言われていたのだが、コンピュータ側の攻めをしのぎ切れずに敗れてしまった。しかし清水さんはあくまで女流棋士。女流と正規のプロ棋士との間ではまだ実力差があるというのは周知の事実であるし、対するコンピュータは言ってみれば4人がかり(笑)。まだまだ完全にプロ側が負けた、ということにはならないという見方もできなくはない。

 ・・・そういう経緯があって、今度の一月に米長永世棋聖とボンクラーズの対戦が行われる。

 ボンクラーズは24時間ずっと自動的に対戦相手を待ちうけするシステムになっていて、一局が終わると自動的に次の対戦者が来るのを待ち(ただし同じ相手からの挑戦は3分経過しないと受け付けない)相手が決まればまた対局…という状況をほぼ2カ月近く続けているのだが、12月28日の午後の時点での成績は

 1920勝112敗61分け R3357 勝率.945

 すさまじい勝ちっぷりである。レーティングも11月10日の時点でR2787であったのが95局目にしてR3000に到達。11月30日にはR3300に達した。
 レーティング対局というのはアマもプロもなく、単純に点数が高いほうが(対局した時点での)棋力が上になるようなシステムである。24での対局は匿名で行われているので事実のほどは定かではないが、少なくとも2800以上の棋力があればアマチュアではもう最強レベルであり、プロ並みの実力だと言われている。そしてレーティングはRが上に行けばいくほど点数を維持するのが難しい仕組みになっている。そういうシステムの中でR3000を余裕で維持してしまっているボンクラーズは相当に強い。24の対局の決まりで、2600以上の棋力の人は400以上R差がある人との対戦はRが変動しないので、現在はボンクラーズが勝ってもRが増えない対戦のほうがかなり多い。にもかかわらずこの成績だ。(まああまりの強さに挑戦しようとする人が減ってきているのも原因なのだが)

 果たしてこのボンクラーズに米長永世棋聖は勝てるのであろうか?
(つづく)

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